誰に売るかが決まっても、その市場に自分だけがいるわけじゃないです。周りに誰がいて、儲けをどこで削られるのか。ここが分かってないと、頑張っても手元に何も残りません。
儲けを持っていく5人。
5フォースといいます。既存の競争、新規参入、代替品、買い手の交渉力、売り手の交渉力。この5方向から利益が削られる、という見方です。せっかくなので、自分がいちばん金を落としてる業界で並べてみます。
棚を取らずに、SNSごと売り場にして入ってきました。百貨店の棚を何年もかけて確保する、という前提そのものを飛ばしてる。
参入のコストが変わると、既存の会社が積み上げてきた強み(棚を取る力)が、そのまま重い固定費に変わります。
いま話題の成分は取り合いになるので、仕入れ値を向こうが決められる。
OEMに作らせている場合、同じ工場が競合の商品も作っています。中身が似てくるのは当然で、だから箱と物語の勝負になる。
他社の百貨店ブランド。同じ棚、同じ価格帯、似た成分。
ここばかり見ていると「隣より安く、隣より盛る」しか思いつかなくなります。でも利益を削っているのは、たいてい残りの4方向のほうです。
どの棚の、どの高さに置くか。決めるのはメーカーではありません。
棚を確保するために販促費を出す、値引きに応じる、専用品を作る。ここで利益がじわじわ抜けていきます。
「隠す」の代わりに「そもそも消す」。同じ棚に並んでいないのに、同じ財布を取り合っています。
しかも向こうは「一回やれば終わる」と言ってくる。毎月買わせる商売とは、時間の売り方がそもそも違います。
真ん中が「既存の競争」で、周りの4つから利益が吸われていく形です。矢印はぜんぶ中心を向いています。競合のSNSを毎日見張っても、見えるのは真ん中の円だけ。残りの4方向は、業界の外を見ないと分かりません。
その財布の引っ越し、SNS広告が起こしてます。
脱毛とかGLP-1(マンジャロなんかの名前で出てくるやつ)の広告、この数年で一気に増えましたよね。あれ、やり方としてはかなり際どいと思ってます。
編集部から一つだけ。GLP-1受容体作動薬は本来、糖尿病や肥満症の治療薬です。美容・ダイエット目的の適応外使用については関連学会から注意喚起が出ています。医療の広告にも医療法上のルールがあって、体験談やビフォーアフター写真の扱いには制限があります。ここで書いているのは広告手法の観察であって、施術や薬の推奨でも否定でもありません。
新規参入は、外から来るだけじゃない。
「今まで客じゃなかった人を客にする」のも参入です。男性向けのコスメ、明らかに増えましたよね。あれは市場そのものを広げにいってる動きです。
で、武器は3つしかないらしい。
ポーターという人の整理です。低コスト、差別化、集中。この3つ。
品種を絞って、調達と配送を効率化して、構造として安く作れる状態を作ること。
値下げは利益を削っているだけで、コストは一円も下がっていません。前者は仕組みの勝負、後者は体力の勝負。体力勝負は、体力がある会社が勝ちます。
お客さんが「価値だ」と認めた独自性のことです。認めていない独自性は、ただの変わった商品。
パッケージを奇抜にしても高く売れないのは、それが解決している困りごとが一つも増えていないからです。
特定の用途と客層に絞って、その範囲では誰にも負けない状態を作る。絞った中で、さらに低コストか差別化のどちらかを選びます。
ただ規模が小さいだけの会社は、集中戦略を取っているのではなく、広い市場で負けているだけ、ということがあります。
この3つは「何で戦うか」の話です。次に出てくるリーダーやニッチャーは「どの範囲で戦うか」の話なので、別の軸として掛け合わせます。
武器と、戦う範囲は別の軸。
リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャー。これは「市場でどの立場にいるか」の話で、さっきの武器の下位分類ではないです。ここ、混ざって説明されてることが多い。
大規模な日用品など。仕入れと物流を効率化して、価格そのものを武器にする。
例:リーダー × 低コスト構造広く知られていて、かつ他と違うと思われている状態。維持に一番お金がかかる。
例:リーダー × 差別化品種も客層も絞りきって、その範囲では誰にも負けない安さにする。
例:ニッチャー × コスト集中特定の人の特定の困りごとだけを、異常に深く解決する。中小企業が現実的に狙える場所。
例:ニッチャー × 差別化集中よくある事故が、左上(量で効かせる)のやり方を、狭い市場の会社がそのまま真似することです。値段だけ下げても、安く作れる仕組みは付いてこないので、体力の差がそのまま出ます。
わたしの思う、化粧品メーカーの4つの立場。
ここからは完全に個人の見立てなので、話半分で読んでください。でも実名で並べたほうが絶対に分かりやすいので、やります。
この会社が本当にすごいのは商品より、売り方のほうを発明してきたところだと思ってます。
1923年のチェインストア制度。関東大震災の直後に、全国の専門店と組んで定価で売る仕組みを作りました。日本で最初のチェインストア制度だそうです。安売り合戦そのものを止めにいってる。
1934年の「ミス・シセイドウ」。一般公募240名以上から9名を選んで、7ヶ月研修。皮膚科学から接客作法まで仕込んで、芝居の形式で美容法を教えて回った。商品を売る前に、化粧をするという習慣のほうを広げてます。これが1959年に「美容部員」になる。
市場を広げるって、たぶんこういうことです。
リーダーが作った市場に、同じ品質でもっと安く、あるいは別の切り口で正面から入ります。
資生堂が新しいカテゴリーを立てると、たいてい似た顔ぶれの対抗ブランドが出てくる。雪肌精みたいな自前の看板を持ちながら、向こうが広げた市場にもちゃんと足を置いてくる感じです。
「2位」の言い換えではなくて、挑む姿勢まで含んだ言葉です。2位でも挑んでいなければ、実態はフォロワーになります。
先頭を追い越すことは狙わず、うまくいくと分かった形を効率よく回して堅実に利益を取る。
ちふれとか、なめらか本舗とか。わたしが疲れてる日に「とりあえずこれでいいか」で手に取るやつです。新しいカテゴリーの開発費を払っていないぶん、実は一番つぶれにくい立ち位置でもあります。
地味なのと弱いのは、別です。
スクワランと無添加、ほぼそれだけ。品数を無闇に広げない。でも「他社の化粧品を塗ると肌が反応してしまう」人には、選択肢がそこしかない。
だから値段で比較されません。比較する相手がいないので。しかも一度合うものを見つけた人は、簡単には離れない。合わなかった記憶が痛いからです。
狭いんじゃなくて、深い。中小企業が現実的に狙えるのは、たぶんここです。
リーダーが市場を広げ、チャレンジャーがそこを奪いにいき、フォロワーが安全に回収する。ニッチャーだけがその争いの外側に、別の穴を掘っています。この分類は公開情報から見た個人的な見立てで、各社が自社をそう定義しているわけではありません。どこまでを市場とみなすかでも立場は変わります。
あと「シェア40/30/20/10%」みたいな図をよく見ますけど、あれは説明用の仮の数字で、普遍的な比率ではないです。そのまま自社に当てはめないでください。
で、なんで似た顔になるのか。
ここまで来ると分かります。同じ市場で、同じ客を狙って、同じくらいの体力だと、合理的に考えた結果がだいたい同じ場所に着地するんですよ。
だから駅前のカフェも、百貨店の化粧品売り場も似てきます。手抜きじゃなくて、それが一番安全だからです。問題は、似た顔の中でどうやって思い出してもらうか。ここでブランドの話になります。
ブランドは、ロゴのことじゃない。
名前とか色とか形みたいな「目印」に、使った経験と他人の評判がくっついて積み上がった認識のこと。だから広告だけ綺麗にしても、問い合わせの返信が3日後なら、そっちが本体になります。
| 設計するもの | 具体的には |
|---|---|
| 約束 | 手順が少なくて、毎日続けられる |
| 信じる根拠 | 使い方、素材の説明、実績とその条件 |
| 目印 | 固有の色、形、ロゴ、しゃべり方 |
| 思い出す場面 | 疲れて帰った夜、贈り物を探す日 |
| 買った後 | 分かりやすい案内、交換、返信の速さ |
自社の代替品を、同業の外から三つ挙げる。「うちの客が、うちを買わなかった日に何に金を使ったか」で考えると出てきます。
身近な例と実務の提案は、本サイトによる説明用の仮説です。人物の発言は架空で、調査回答や利用者の証言ではありません。
この章の出典・参考資料(7件)
- Harvard Business School|The Five Forces 理論解説
- Harvard Business School|Strategic Positioning 理論解説
- Monash Business School|Market Nicher / 関連する競争地位の辞典 大学のマーケティング辞典
- Pearson|Principles of Marketing:競争戦略の章構成 出版社資料。基本戦略と競争地位を別項目として掲載
- American Marketing Association|Branding 基本理論
- 資生堂|ビューティーコンサルタント80年の歴史(ミス・シセイドウ) 1934年の第1期生は公募240名以上から9名、7ヶ月研修
- 資生堂|資生堂チェインストア制度100周年 1923年12月開始 / 日本初のチェインストア制度
